日本刀|太刀・打刀・脇指は同じものなのか

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「日本刀」という言葉を聞くと、反りのある長い刀をひとまとめにイメージする人も多いと思います。

ところが、実際に文化財の名称を見てみると、

太刀
小太刀
打刀
脇指
短刀

など、いくつもの呼び方があります。

見た目が似ているものもありますが、これらは全部同じものなのでしょうか。

今回は、文化庁の国指定文化財等データベースと、1914年刊『古事類苑』の刀剣の項目を見ながら、古い刀剣がどのような名前で分けて扱われているのかを確認してみます。

文化財を見ると「日本刀」という一種類の名前では登録されていない

まず、文化庁の国指定文化財等データベースを見てみます。

刀剣の指定物件をいくつか確認すると、

太刀〈銘友成作〉

太刀〈銘安綱〉

太刀〈銘光忠〉

小太刀〈銘来国俊〉

脇指〈銘備前国住長船勝光宗光備中於草壁作/文明十九年二月吉日〉

など、それぞれ別の名称で登録されています。

今回確認した物件では、

「日本刀〈銘○○〉」

という一括した名称ではなく、太刀・小太刀・脇指など、刀剣の種類を示す言葉が指定名称に使われていました。

つまり、「日本刀」というのは読者にとって便利な大きなくくりではあっても、文化財の名称を見ると、実際の物件はさらに細かく分けて扱われています。

平安の太刀、室町の脇指――ただし発展順とは限らない

登録された物件には、それぞれ時代も記されています。

たとえば、

太刀〈銘友成作〉と太刀〈銘安綱〉は「平安」。

太刀〈銘光忠〉や小太刀〈銘来国俊〉は「鎌倉」。

大薙刀〈銘備州長船住盛景/貞治六年十一月日〉は「南北朝」。

脇指〈銘備前国住長船勝光宗光備中於草壁作/文明十九年二月吉日〉は「室町」。

となっています。

こうして並べると、

「平安時代は太刀で、そこから脇指へ発展したのか」

と考えたくなります。

ただ、今回確認したのは文化財として現存・指定されている数件だけです。

そのため、この並びをそのまま刀剣の発達史として読むことはできません。

どの時代に何がどれくらい使われたのか。

ある種類がいつ一般化したのか。

そこを知るには、もっと広い史料や研究が必要です。

『古事類苑』では刀剣をかなり細かく分けている

では、古い文献をまとめた本ではどうなっているのでしょうか。

1914年刊行の『古事類苑』兵事部を見てみます。

『古事類苑』は、さまざまな古典籍の記述を項目ごとに集めた大規模な類書です。

その刀剣の部の目録を見ると、

太刀

打刀

腰刀

小刀

脇指

守刀

短刀

鞘巻

などが、それぞれ別の項目として立てられています。

つまり、少なくとも1914年の『古事類苑』を編纂した人々は、これらを全部「刀」として一つの項目に押し込んだわけではありません。

名前を分け、それぞれ別に古い資料を集めているわけです。

ここからも、太刀・打刀・脇指をまったく同じ言葉として扱うのは難しそうだということが分かります。

「打刀」とは何だったのか

そこで『古事類苑』の「打刀」の項を開いてみます。

ここには複数の古い書物から引用された説明が並んでいます。

まず『刀劍問答』として紹介されている記述。

それによれば、古い時代の武士は、当時のように脇指と打刀を二本差しにするのではなく、自分では鞘巻の刀を差し、

太刀と打刀は供の者に持たせた

という趣旨の説明があります。

現在の時代劇では、武士といえば腰に二本の刀を差している姿が定番です。

しかし、この記述が語っている武士像は少し違います。

もちろん、これだけで「昔の武士はみんなそうだった」とは言えません。

確認できるのは、『刀劍問答』として引用された文章が、そのように説明しているというところまでです。

『後松日記』では、打刀はもともと短かったと説明される

同じ「打刀」の項には、『後松日記』として引用された文章もあります。

そこでは、打刀について、

もとは長さ一尺二、三寸ほどで、片手で打ち合うためのものだった。

それが次第に長くなり、

足利の世には太刀の代わりとして用いられるようになった

という趣旨で説明されています。

これも興味深い記述です。

私たちは「太刀」と「打刀」を完成した二種類の刀として見がちですが、この説明では、用途や長さが時代とともに変化していったものとして語られています。

ただし、今回読んだのは『後松日記』そのものではありません。

『古事類苑』に引用された文章を読んだだけです。

そのため、この説明がどの時代の実態をどこまで正確に表しているかまでは、この記事では判断しません。

古い本の中でも「打刀とは何か」で意見が割れている

さらに面白いのが、『古事類苑』の同じ項に、刀の呼び方そのものをめぐる議論が載っていることです。

『刀劍問答』として引用された文章では、

「今の刀は古の打刀ではない」

という別の書物の説明を取り上げています。

ところが『刀劍問答』は、それを誤りだとして、

「今の刀は古の打刀である」

という立場を取っています。

つまり、後世の人が昔の刀剣について調べたときにも、

「この刀と昔の打刀は同じものなのか」

という問題で意見が分かれていたわけです。

これは今回の記事の問いそのものにもつながります。

「太刀・打刀・脇指は何が違うのか」という問題は、単に現代の分類表を見ればすべてきれいに解決するものではなく、古い文献の中でも呼び方や理解に揺れがあったことが分かります。

太刀・打刀・脇指は「全部同じ刀」なのか

今回確認した資料だけから答えるなら、

少なくとも名前の上では、同じものとして扱われていません。

文化庁の国指定文化財等データベースでは、太刀・小太刀・脇指・短刀・大薙刀などがそれぞれの名称で登録されています。

『古事類苑』でも、

太刀。

打刀。

脇指。

短刀。

などは別々の項目です。

つまり、「日本刀」という大きなくくりの中に、複数の名称があると考えるほうが資料の扱いには近そうです。

ただし、

「長さが何センチなら脇指」

「刃を上にして差せば打刀」

「下向きなら太刀」

というような現在よく見かける分類を、今回の記事ではここから作りません。

それを確かめるための別の資料を、まだ読んでいないからです。

名前が違うということは、役割も違ったのか

ここまで読むと、次に気になるのは、

「名前が違うなら、使い方も違ったのでは?」

というところでしょう。

実際、『古事類苑』の引用には、

太刀と打刀を供に持たせたという説明。

打刀が片手打ち用だったという説明。

足利時代に太刀の代わりとして使われるようになったという説明。

などが出てきます。

つまり少なくとも、古い文献をまとめた『古事類苑』の中では、刀剣の種類について用途や時代による違いを説明しようとする記述があります。

しかし、それをそのまま全時代・全武士の実態として広げることはできません。

一冊の本の中でも複数の説が並び、一部では互いに食い違っているからです。

むしろ、

刀剣の名称は、時代によって意味や使われ方が変化していた可能性がある

というところが、今回資料を読んでいて面白い部分です。

「日本刀」という言葉から一歩進んで見る

博物館や神社で刀を見るとき、「日本刀」という言葉だけでまとめてしまうと、どれも同じように見えるかもしれません。

しかし、文化財の名称をよく見ると、

「太刀」

「脇指」

「短刀」

などと書かれています。

さらに古い資料をまとめた本を開けば、「打刀」「腰刀」「鞘巻」など、もっと多くの名前が現れます。

つまり日本の刀剣は、

全部を「日本刀」という一語だけで見るより、それぞれの名前に注目したほうが歴史が見えてくる

ということです。

太刀と打刀はどう違ったのか。

脇指はいつからどのような形で使われたのか。

なぜ時代によって呼び方が変化したのか。

今回の記事は、その入口までです。

今回確認できたこと

今回確認した内容をまとめます。

文化庁の国指定文化財等データベースでは、刀剣は太刀・小太刀・脇指・短刀・大薙刀など、それぞれの名称で登録されています。

1914年刊『古事類苑』でも、太刀・打刀・腰刀・小刀・脇指・守刀・短刀・鞘巻などが別々の項目として立てられています。

また「打刀」の項では、『刀劍問答』『後松日記』などから、打刀の使われ方や変化を説明する文章が引用されています。

さらに『刀劍問答』は、「今の刀」と「古の打刀」の関係をめぐる別の説明に異論を述べています。

したがって、

太刀・打刀・脇指は同じものなのか

という問いに対して、今回読んだ資料から確実に言えるのは、

少なくとも名称としては分けて扱われている

ということです。

それぞれが具体的にどのような形・用途・時代差を持つのかについては、さらに資料を読む必要があります。

今回確認した資料について

この記事では、文化庁の国指定文化財等データベースに登録された刀剣のうち、いくつかの物件を確認しました。

登録物件全体を集計したわけではありません。

また、『古事類苑』については刀剣の部の目録と「打刀」の項を中心に読みました。

『古事類苑』が引用する『刀劍問答』『後松日記』そのものの原本は今回確認していません。

合戦で太刀・刀・槍・弓・鉄砲などが実際にどれくらい使われたのかについても、今回は扱っていません。

そのためこの記事では、刀剣の使用頻度や「どれが主力武器だったか」ではなく、資料上で刀剣の名前がどのように分けられているかを中心に見ています。

参考資料

  • 国指定文化財等データベース(文化庁)

  • 『古事類苑 兵事部九』1914年

    • 刀剣の部目録

    • 「打刀」の項

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